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評価:
渋沢 和樹
日本経済新聞出版社
¥ 1,680
(2010-03-19)
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NTTが民営化され、稲盛会長を中心にしてKDDIが設立されるまでのドキュメンタリーを経済小説にしたもの。途中で、29歳の若き孫正義も登場します。弱いものいじめをするNTT、少数精鋭で立ち向かう第二電電の構図は、個人的に自己矛盾を抱えながらも第二電電を応援したくなります。この通信業界に携わる人も、そうでない人も業界の背景がわかってチャレンジャーストーリーとしてとても楽しめる小説です。まだ自分が大学生前後で、マイラインやらKDDIの大合併やらをなんとなく横目でみていたものが、実は裏でこんなにすごいことが起こっていたのかと感動しました。
また、随所に登場する超大物 稲盛会長のメッセージを読めば、JALをなんとかしてくれるんじゃないかと期待も膨らみます。ただ、本書がau絶不調の中発行されたのは若干皮肉な気がします。KDDIはauの減収を、有線回線事業の赤字解消で補っている状態。もし、再度、KDDIが浮上するのであれば、この本のセカンドストーリーも読んでみたいです。
P.174
稲盛
「人間には三種類いると僕は思っていてね。僕みたいに自ら燃える自然性の人間、日を近づけるとぼおっと燃え上がる可燃性の人間、火を近づけても燃えない石ころみたいな不燃性の人間。いくらもやそうと思っても燃えない奴はいらんわな。せめて私が一時間二時間しゃべったら、一緒になって燃え上がってくれる人間でないとね。」
「そういうのってすぐにわかりますか」
だれかが聞いた。
「すぐにはわからないけれど、三十分、1時間も話をしていれば見当はつくね。結局、燃えられるとか感動できるというのは資質だから、そういうのがない人に植え付けようとしても無理だと思う。」
P.292
稲盛
「これは決して大げさではなくて、日本企業の対等合併にはいい合併は一つもないと言っていい。たとえば銀行同士の合併はすべて対等合併で、頭取などのトップの人事はたすきがけです。合併した銀行が代わりばんこに出身者をトップに就けるわけですね。そんなやり方で活力が生まれるわけがない。本来は経営の中心に軸があり、それにみんなが結集しなければいけないのに、トップたちがそれぞれの出身企業の意を呈して『俺が俺が』と自分を主張していたら意思決定がぶれて、経営が迷走してしまう。 ところが日本の企業文化にはそれがないんです。だれかが中心になり、他を束ねていく発想がない。だから僕がそれを言うと、みんなが『覇権主義だ』というわけです。『稲盛さんは威張りたくて、そう言うのだろう』と。もちろんそんなことはあるはずがない。僕は威張りたがり屋じゃないですからね。合併して生まれた会社をすばらしい会社にしようと思うなら、一本にまとめなければいけない。ただそう思うだけです。実際、経済合併でうまくいく例が多いのは、吸収された側が吸収した側の意思決定にきちんと従うからです」
P.301
トヨタ会長 奥田
「そういえば、先だってビジネス誌のインタビューだと思いますが、いわゆる金融工学を駆使した昨今のデリバティブ取引の流行に対して警鐘を鳴らされていますね。実は私もこの風潮を嘆かわしく思っていましてね。企業の本分や社会的使命を逸脱しているんじゃないかと」
稲盛はうなずいた。
「私はあれはどこかで必ずつまづくと思っているんです。高度な金融工学によってリスクを分散すると言うけれども、リスクの総体が減っているわけではない。ただ見えにくくなっているだけです。そんなものにのめり込んでいる会社は、いずれ咎めを受けるでしょうね」